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千葉地方裁判所 平成元年(ワ)133号 判決

原告(反訴被告) 甲野太郎

右訴訟代理人弁護士 黒須雅博

同 村松浩二

被告(反訴原告) 乙山春子

右訴訟代理人弁護士 高橋高子

主文

原告(反訴被告)は、被告(反訴原告)に対し、一三八万五三二〇円及びこれに対する平成元年一一月二日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

原告(反訴被告)の請求及び被告(反訴原告)のその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、本訴及び反訴を通じてこれを五分し、その二を原告(反訴被告)の負担とし、その余を被告(反訴原告)の負担とする。

この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  本訴

(一) 原告(反訴被告)と被告(反訴原告)との間において、別紙目録記載の交通事故による損害賠償債務の存在しないことを確認する。

(二) 訴訟費用は被告(反訴原告)の負担とする。

2  反訴

(一) 原告(反訴被告)は、被告(反訴原告)に対し、三四六万八六八〇円及びこれに対する平成元年一一月二日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

(二) 訴訟費用は原告(反訴被告)の負担とする。

(三) 仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  本訴に対し

(一) 原告(反訴被告)の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告(反訴被告)の負担とする。

2  反訴に対し

(一) 被告(反訴原告)の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は被告(反訴原告)の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  本訴

(一) 被告(反訴原告。以下、単に「被告」という。)は、昭和六三年八月一四日午後六時三八分ごろ、原動機付き自転車(以下「被告車」という。)を運転中、千葉県市川市大和田五丁目二番二号先路上(以下「本件事故現場」ということがある。)において、同所付近の道路左端に停車していた原告(反訴被告。以下、単に「原告」という。)の普通乗用自動車(以下「原告車」という。)の前方一〇メートル位の所に倒れた(以下、これを「本件事故」ということがある。)。

(二)(1) 原告車は被告車と衝突しておらず、また、原告は被告車の衝突を直接見ていないので詳細は不明であるが、右事故は走行中の被告車と他車とが衝突したために発生したものと思われる。原告は、前記のとおり道路左端に原告車を停車させていたところ、突然原告車右後方よりドカンという衝突音が聞こえ、原告車の右前方センターライン付近に被告車が回転しながら倒れてきた。そして、それと同時にセンターライン側より被告が飛んできて原告車の前方一〇メートル位の所に倒れた。それと同時に原告車の右側を紺色のトヨタの普通乗用自動車が猛スピードで走り去るのを目撃した。本件事故による被告車の損傷状況を見てみると、前輪が右向きに変形し、かつ、ホイールベースが二四・五センチメートル縮小している。それは、被告車に対して後向きに大きな衝撃力が作用した結果であり、単に被告車が路上に転倒しただけではこのような損傷は生じない。

(2) 仮に原告車に被告車が衝突したとしても、本件事故は、停車していた原告車に走行してきた被告車が衝突したものであり、右事故は、飲酒運転をしていた被告の一方的な過失によるものである。すなわち、①本件道路は片側の車道の幅員が五・四メートルの広い道路で見通しは良好である。②本件事故時はまだ明るく、被告は、原告車を前照灯を付けなくても十分に発見することができた。③原告車は、道路左端にウインカーを出して停車していた。④原告が被告車のと思われる衝突音を聞いたのは、原告車が停車した後五分位のことである。⑤事故当日はお盆であり、事故現場の交通量は少なかった。そして、原告車には構造上の欠陥及び機能の障害はなかった。

(三) ところが、被告は、加害者が判明しないこともあってか、原告を加害者とし、見舞いに来るよう強要し、更には賠償を求めている。

よって、原告は、被告との間で、本件事故による損害賠償債務の存在しないことを確認することを求める。

2  反訴

(一) 被告は、昭和六三年八月一四日午後六時三八分ごろ、被告車を運転して千葉県市川市大和田五丁目二番二号先道路を鬼高方面から大洲方面に向けて走行中、被告車の前輪部分を道路左端に駐車していた原告所有の原告車の後方右側フェンダー付近に衝突させて転倒し、よって、頭蓋骨骨折、脳挫傷の傷害を負った。

(二)(1) 自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)二条二項の「運行」とは、人又は物を運送するとしないとにかかわらず、自動車を当該装置の用い方に従って用いることをいい、道路上の駐車は自動車の運行の一態様に当たるので、原告は、自賠法三条により、被告が被った損害を賠償する義務がある。

(2) 本件事故現場の道路は、交通量が多く、駐車禁止の交通規制がなされているところ、原告は、右道路の反対側にある「コイン洗車場カーピカランド市川」で洗車をするため、後部座席に当時一歳の子を乗せた原告車を、洗車道具を袋から出す動作をしながら約五分にわたって駐車させていた。被告車が原告車と接触あるいは衝突をしていないとしても、原告が右道路上に違法に駐車していたために被告車が転倒したのであり、原告には過失があるから、民法七〇九条による責任がある。

(三)(1) 治療費 三九万八一〇〇円

被告は、本件事故による受傷のため、昭和六三年八月一四日から同年九月二二日まで四〇日間にわたり医療法人新行徳病院に入院し、その治療費として三八万二一〇〇円を、同月二九日から平成元年七月二五日までの間に一六日通院し、その治療費として一万六〇〇〇円をそれぞれ要した。

(2) 入院雑費 五万二〇〇〇円

右入院中、一日について一三〇〇円の割合によるのが相当である。

(3) 付添費 一八万六五八〇円

被告は、右受傷による意識障害のため、入院中、暴れることが多く、昭和六三年九月一日から同月一七日までの間、付添人を必要とした。

(4) 休業損害 八一万六〇〇〇円

被告は、本件事故当時、丙川株式会社に引っ越しアドバイザーとして勤務し、月額一七万円の収入を得ていたところ、右受傷のために平成元年八月末日まで右勤務を休まざるを得なかったが、その間、右収入の六割に相当する社会保険給付を受けたので、これを控除する。

(5) 慰謝料 二〇〇万円

被告は、右受傷による重篤な意識障害を受け、平成二年一二月九日にはその後遺障害としててんかんの発作を起こして五日間にわたり入院し、更にてんかんの発作を抑えるため薬を服用しなければならず、現在も月に一回通院して投薬を受けている。また、被告は、車の運転ができなくなり、同年六月に同社を退職した。被告の右のような精神的苦痛を慰謝すべき金額は、二〇〇万円を下らない。

よって、被告は、原告に対し、自賠法三条又は民法七〇九条に基づく損害賠償として、三四六万八六八〇円及びこれに対する不法行為の後である平成元年一一月二日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

1  本訴に対し

(一) 請求の原因(一)の事実は認める。

(二) 請求の原因(二)の事実は否認する。

(三) 請求の原因(三)のうち、被告が原告を加害者として見舞いに来るように求めたことは認めるが、その余の事実は否認し又は争う。

2  反訴に対し

(一) 請求の原因(一)のうち、被告がその主張する日時に被告車を運転してその主張の道路を走行していたこと、原告がその所有する原告車を被告主張の場所に停車させていたことは認めるが、被告車の前輪部分が原告車の後方右側フェンダー付近に衝突したことは否認し、被告の進行方向及び傷害の内容は不知。

(二) 請求の原因(二)のうち、(2)の原告が原告車に当時一歳一一か月の子を同乗させていたことは認めるが、原告に自賠法三条又は民法七〇九条の責任があるとの主張は争う。駐車車両と接触・衝突がない非接触型の事故についても、駐車車両の運行供用者ないし運転者に責任を生じることがあるが、その場合においては、駐車車両と事故との間に相当因果関係があることが必要であり、その因果関係は被害者側に主張・立証責任があるところ、被告は、単に違法駐車したとするのみで、その具体的因果関係を主張しない。(三)請求の原因(三)のうち、被告が新行徳病院に入院したことは認めるが、その余の事実は否認し、主張は争う。

三  仮定抗弁―反訴に対し

1  免責―請求の原因(二)の(1)に対し

前記一の1の(二)の(2)を引用する。

2  過失相殺

本件事故について原告に何らかの責任があるとしても、前記の現場の状況から、通常であれば原告の停車に起因して事故が発生するはずがなく、発生したとすれば、被告が飲酒のために相当に運転能力を欠いていたことと、著しい前方不注意及び運転ミスによるものであり、被告の過失割合は極めて大きいといわなければならない。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1のうち、本件事故が被告の一方的な過失によるものであることは否認し、原告車に構造上の欠陥及び機能の障害がなかったこと並びに原告が自賠法上免責されるとの主張は争う。

2  抗弁2は争う。

第三証拠《省略》

理由

一1  本訴請求の原告(一)の事実並びに反訴請求の原因(一)のうちの被告が昭和六三年八月一四日午後六時三八分ごろに被告車を運転して千葉県市川市大和田五丁目二番二号先道路を走行していたこと及び原告がその所有する原告車を右道路左端に停車させていたことについては、当事者間に争いがない。

2  《証拠省略》を総合すると、被告は、被告車を運転して同市原木一丁目の自宅を出発し、同市市川南にある夫の実家に向ったこと、被告は、本件事故の六年ほど前に自動車運転免許を取得し、本件事故当時は勤務先で仕事上軽四輪自動車を運転する機会が多かったこと、被告車は、スズキ株式会社製の塗装色が赤のラブの愛称で呼ばれるスクーターで、被告が本件事故の三年ほど前に新車で購入したものであること、本件事故現場は、同県道若宮西船市川線の歩車道の区別のある道路の車道部分のうち片側の同市鬼高方面から同市大洲方面に向かう一車線の路上で、右車道部分は、アスファルト舗装され平坦かつ直線で見通しが良く、本件事故当時は乾燥していたこと、右車道部分の幅員は一〇・九メートルであるが、右の片側の幅員は、中央線(センターライン)と外側線との間が四メートル、外側線と歩道との間が一・四メートルであること、右車道の本件現場付近には、駐車禁止、追越しのための右側部分はみだし禁止、最高速度―〇時から六時まで毎時三〇キロメートル、六時から二四時まで毎時四〇キロメートルの交通規制があること、被告が被告車を運転して夫の実家に向かうには、右道路を同市鬼高方面から同市大洲方面に向かって進行するのが順路であること、本件事故当時は薄暮になっていたが、明るさが残っており、車両は、前照灯を付けずに走行することができたこと、原告は、本件事故当日の午後六時半ごろ、本件事故現場の反対側にある「コイン洗車場カーピカランド市川」で原告車を洗車しようとして後部座席に当時一歳一一か月の子を乗せ、原告車を運転して本件事故現場付近に行ったところ、右洗車場には洗車中の自動車がおり、更に洗車場が空くのを待っている先着の自動車もいたため、一〇分位は様子を見ようと思い、右事故現場の車道左側端に原告車の左側をほぼピッタリと付けて原告車を停め、パーキングブレーキを引き左のウインカーを点滅させていたこと、原告車の少し後にも一台の乗用車が原告車と同様に車道の左側端に停まっていたこと、原告は、原告車を停めて五分ほどして運転席で袋から洗車用のブラシを出そうとして下を向いていたところ、右後方に衝突音様の音を聞いて顔を上げると、被告車が回転しながら右斜め前方の中央線付近に横転し、前方に被告が背面ジャンプをするような格好で飛んで行って路上に転倒するのを見たこと、原告は、それと共に、原告車の右側を普通乗用自動車が猛スピードで走り去るのを目撃したこと、原告車は、昭和五五年三月に自動車登録された運転席が左側にあるメルセデスベンツで、車長が四・九六メートル、車幅が一・八六メートル、車両重量が一六九〇キログラムであること、被告は、本件事故の際、原告車の右側最後部から同市大洲方面に向かって前方一三・六メートル、歩道の車道側縁石端から一・八メートルの右車道内の地点、つまり、原告車の右側最後部から同市大洲方面に向かって歩道の車道側縁石端からほぼ原告車の車幅を置いて右車道なりに一三・六メートルの地点に転倒したこと、被告は、本件事故によって右頭蓋底骨折、左側頭葉脳挫傷、右眼瞼腫張・皮下出血の傷害を負ったこと、なお、本件事故直後被告に酒臭があったこと、被告車は、本件事故の際、原告車の右側最後部から同市大洲方面に向かって右斜め一一・四メートルの道路中央線上に横転したこと、原告車の右側最後部と右被告車が横転した地点をほぼ直線で結んで原告車の右側最後部から八・二メートルの地点と右被告車が横転した地点との間に三・二メートルにわたって道路面に擦過痕があったこと、被告車の破片も路上に落ちていたが、その位置は定かでないこと、被告車は、本件事故によって、前輪が右にねじれ、前輪の鳥のくちばし状のフェンダーの右側が切断し、防風パネルの右側下部が斜めに大きく切り裂けると共に左側下部が一部欠損状に切れていて、ホイールベースが二〇センチメートルほど短縮し、更に、右側のカウリングステップ付近、カウリング後方部分及びマフラーに擦過痕があること、しかし、被告車の前輪のフェンダーの上に取り付けられた荷物入れの籠や後輪のフェンダー、尾灯ないし制動灯等の後部にはこれといった損傷は見られないこと、原告車には、右側の後輪フェンダー最後部から車体前方にかけて長さ三四センチメートルの払拭痕があり、右側後輪タイヤ空気注入口付近に衝突痕があること、本件事故発生直後の一一〇番通報により出動した同県警察本部市川警察署交通課交通事故係長警部補石橋希人は、原告車の右払拭痕及び衝突痕の新鮮さ、原告車の停まっていた地点と被告の転倒した地点や被告車の横転した地点の位置関係等から右払拭痕は被告の左の靴辺りが接触してできたものであり、右衝突痕は被告車の前輪のタイヤ部分が衝突してできたものであると判断し、被告車が原告車と衝突したかどうか分からないと言っていた原告に対し、右払拭痕や衝突痕を示してこの辺に衝突したのではないかと問い質したところ、原告は、そのときはそれを認めたことを認めることができる。《証拠判断省略》

3  右の1及び2の各事実によれば、本件事故は、被告が被告車を運転して本件事故現場を同市鬼高方面から同市大洲方面に向けて進行し、進路の車道左側端に停止している原告車の右脇を通過しようとしたところ、右車道を後方から自己と同一の進行方向に高速度で接近して来る普通乗用自動車を発見してあわてて左側に転把し、自己の左の靴辺りを原告車の右側後輪のフェンダー最後部に接触させた上被告車の前輪タイヤ部分を原告車の右側後輪タイヤ部分に衝突させたか、原告車の右側後部との接触ないし衝突の危険を避けようとしてかして急制動をすると共に急激に右に転把するといった急激なハンドル操作をしたため、被告車の安定を失わせると共に被告車を右に急回転させてしまい、その遠心力、進行方向に向かっての慣性等からハンドルを握った状態で腰又は足の方から車外に放り出された後ハンドルを握っていた手が離れて路上に転倒したことによって発生したことを推認することができ(る。)《証拠判断省略》したがって、本件事故が発生したことについては、原告が原告車を本件事故現場の車道の左側端に停めていたことも一因となっているといわなければならない。

二  原告は、原告には本件事故の発生について何らの過失もないから自賠法三条ただし書きの規定によって免責される旨主張する。そして、(A)原告が原告車を道路左側端に左のウインカーを点滅させて停めていたこと、被告が飲酒をした上被告車を運転していたことは前記のとおりであり、《証拠省略》によれば、本件事故当日の午後七時から午後八時までの本件事故現場の交通量は普通であったことを認めることができ、右事実によれば、本件事故発生当時の本件事故現場の交通量は普通であったことを推認することができる(《証拠判断省略》)。しかしながら、他方において、(B)本件事故の発生の状況は前記のとおりである上、原告が本件事故現場の反対側にある「コイン洗車場カーピカランド市川」で原告車を洗車しようとして、洗車ができるかどうか一〇分位は様子を見ようと思い、本件事故現場の車道左側端に原告車を停めていたこと、原告が原告車を停めて五分ほどして本件事故が発生したことは前記のとおりであって、右事実によれば、原告が原告車を停めていた態様は、道路交通法二条一項一八号にいう駐車に当たるというべきところ、本件事故現場に駐車禁止及び追越しのための右側部分はみだし禁止の交通規制があることは前記のとおりであり、《証拠省略》によれば、原告は、本件事故現場に駐車禁止の交通規制があることを知らずに本件事故現場の車道左側端に原告車を駐車していたことを認めることができ、右(B)の事実を併せ考えると右(A)の事実から原告に本件の発生について過失がないということができないし、他に原告の右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

三1  そうとすると、その余の点を判断するまでもなく、原告は、自賠法三条本文の規定に基づいて、被告が本件事故によって被った損害を賠償する責任があるところ、被告が本件事故によって右頭蓋底骨折、左側頭葉脳挫傷、右眼瞼腫張・皮下出血の傷害を負ったことは前記のとおりであり、被告が新行徳病院に入院したことについては当事者間に争いがなく、《証拠省略》を総合すると、右傷害の程度は、昭和六三年八月一四日から同年九月二二日まで四〇日間にわたって入院を、同月二九日から平成元年七月二五日までの間に検査等のために一六日通院をそれぞれ要し、平成二年一月九日の時点のCT検査では左側頭葉に軽度の脳萎縮が認められ、本件事故の前後の状況についての記憶を全く欠落し、その後も記銘力に低下が見られる上、同年一二月九日にはてんかんの発作を起こして五日ほど入院を要し、その後も二年程度右発作を抑えるために抗てんかん剤を服用しなければならない障害を後遺するものであったことを認めることができる。

2  被告の右身体毀損を金銭をもって評価すると次のとおりである。

(一)  財産的損害

(1) 治療費 二三万四八七〇円

被告は、入通院の治療費として三九万八一〇〇円を要した旨主張するが、《証拠省略》によれば、その中には保険を適用されたものが含まれており、被告が支出した入通院の治療費は、二三万四八七〇円であることを認めることができるから、被告の右主張は右の限度で理由があるが、その余は理由がないというべきである。

(2) 入院雑費 四万八〇〇〇円

被告は入院一日当たり一三〇〇円とするのが相当である旨主張するが、入院一日当たり一二〇〇円とするのが相当であるから、被告の右主張は、その限度で理由があるが、その余は失当であるというべきである。

(3) 入院付添費 一八万五五三〇円

被告は、入院付添費として一八万六五八〇円を支出した旨主張し、前記の被告の傷害の部位・程度からすれば、前記入院中のうち昭和六三年九月一日から同月一七日までの間は付添人を必要としたことを認めることができるところ、《証拠省略》によれば、被告は、右期間中被告を付添い看護した職業付添人に対し、一八万五五三〇円を支払ったことを認めることができるが、その余の金額を支出したことについてはこれを認めるに足りる証拠がないから、被告の右主張は、一八万五五三〇円の限度で認めることができるが、その余は失当といわなければならない。

(4) 休業損害 八一万六〇〇〇円

《証拠省略》によれば、被告は、本件事故当時、航空集配サービス株式会社に引っ越しアドバイザーとして勤務し、本件事故前三か月を平均すると一か月当たり一七万円以上の収入を得ていたところ、本件事故による受傷のために平成元年八月末日まで約一年間右勤務を休まざるを得なかったが、その間、右収入の六割に相当する社会保険給付を受けたことを認めることができる。

(二)  過失相殺

本件事故の状況は前記一のとおり、右の事実によれば、被告は、被告車を運転して片側一車線の進路前方の左側端に駐車している原告車の右脇を通過しようとしたのであるから、後方から接近してくる車両の動向を的確に把握し、原告車と接触ないし衝突をしたりその危険を招来したりしないようにすべき注意義務があるにもかかわらず、後方から接近してくる車両の動向を的確に把握しないまま漫然と原告車の右脇を通過しようとした過失があるといわなければならない。そして、本件事故の態様なかんずく原告の前記二の(B)の・駐車をすると他車両の通行の危険を招来するおそれがある片側一車線の車道に漫然と駐車した過失と被告の右過失を彼此勘案すると、その割合は、原告の三、被告の七とするのが相当である。したがって、原告が、被告に対して賠償すべき本項(一)の(1)ないし(4)の財産上の損害は、三八万五三二〇円とすべきである。

(三)  慰謝料 一〇〇万円

前記一及び三の1の本件事故の態様(被告の過失を含む。)、被告の受傷の部位・程度(後遺障害の部位・程度を含む。)に、前記一の2の被告が本件事故当時飲酒をして被告車を運転していたこと、《証拠省略》によって認められる・被告が前記三の1の後遺障害のために自動車の運転ができなくなって引っ越しアドバイザーとしての仕事ができなくなったので、丙川株式会社を退職せざるを得なくなったこと等の諸般の事情を考慮すると被告が本件事故によって被った精神的苦痛を慰謝すべき額は、一〇〇万円をもって相当とする。

四  以上のとおりであって、原告の本訴請求は理由がないから棄却し、被告の反訴請求は、一三八万五三二〇円及びこれに対する平成元年一一月二日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 並木茂)

〈以下省略〉

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